東京高等裁判所 昭和35年(ラ)471号 決定 1960年9月19日
抗告人 藤田武
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告代理人は、原決定を取消し、さらに、相当の裁判を求め、その抗告理由は別紙記載のとおりである。
記録中の登記簿の記載によれば抗告人が「知れている更生担保権者」であること、従つて、裁判所が更生手続開始の決定をしたときは、会社更生法第四十七条第二項に掲げる書面を抗告人に送達しなければならなかつたことは、抗告人の主張(抗告理由(四))するとおりである。しかし、右書面の送達が為されず、また、抗告人に対して、更生手続開始の決定の通知、競売手続中止の旨の通知、送達、更生担保権届出期間の通知が為されず、その結果抗告人が担保権の届出をしなかつたとしても(抗告理由(三)及び(四))、抗告人の主張する(抗告理由(五))ように、更生手続が更生担保権者である抗告人に対しなんら効力のないものということはできない。けだし、会社更生法第六十七条第一項によれば、更生手続開始の決定があつたときは更生担保権に基く競売法による競売手続は当然中止せられるのであるし、同法第二百四十六条第一項によれば、右の中止せられた競売手続は当然その効力を失うのであるから、前記のような通知や送達の有無によつて、右各規定によつて生ずる効力を左右するものとは到底解せられない。(なお、同法第四十七条によれば、裁判所が更生手続開始決定をしたときは、同条第一項各号に掲げる事項を公告するとともに、知れている更生担保権者に対しては、右事項を記載した書面を送達することを要するのであるが、同法第十五条によれば、同法の規定によつて公告及び送達をしなければならない場合には、公告は一切の関係人に対する送達の効力を有するものと定められている。そして、同法第四十七条第一項第三号、第四十六条によれば、右公告には更生担保権の届出期間が記載せられることとなつている。また、競売手続は、同法第六十七条第一項により、更生手続開始決定があれば当然中止せられるのであつて、別に中止の決定をするのではなく、中止せられた旨を通知、送達すべき旨の規定は存しない。)従つて、同法第二百四十六条第一項によつて本件競売手続がその効力を失つたことを理由として、抗告人の競売申立を却下した原決定は相当で本件抗告は理由がない。
よつて、本件抗告はこれを棄却すべきものとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条に則り、主文のとおり決定する。
(裁判官 薄根正男 村木達夫 元岡道雄)
抗告理由書
一、右競売申立却下の原決定の理由によると、右競売手続は右不動産の所有者株式会社横浜ヨツト製作所に対する横浜地方裁判所昭和三三年(ミ)第六号会社更生事件につき、昭和三四年一〇月二〇日更生計画認可の決定があつたから、会社更生法第二四六条第一項により右競売手続はその効力を失つたから、申立を却下する、というにある。
二、会社更生法第二四六条第一項は「更生計画認可の決定があつたときは、第六十七条第一項の規定によつて中止した(中略)競売法による競売手続は、その効力を失う。」と規定し、而して同法第六七条第一項によれば、「更生手続開始の決定があつたときは(中略)更生債権若しくは、更生担保権に基き会社財産に対し既にされている(中略)競売法による競売手続は中止し、(後略)」と規定している。
三、ところが、抗告人(債権者)は、右更生事件の更生手続開始の決定の通知はもとより、右競売手続中止の旨の通知送達も何ら受けておらず、したがつて更生担保権者として同法第一二六条に定める担保権の届出を右裁判所に対してしなかつた。もとより抗告人は右裁判所から、右届出期間の送達も受けなかつた。
四、同法第四七条第二項によれば、裁判所は、更生手続開始決定をしたときは、同条第一項に掲げる事項等を記載した書面を、「知れている更生債権者、更生担保権者及び株主」に対し、送達しなければならない、と規定しているにも拘らず、抗告人は何ら右書面の送達も受けなかつた。
なお、抗告人が「知れている更生担保権者」であることは、本件不動産の登記簿の記載並に右会社の帳簿等書類上明白である。
五、それ故、前記更生手続は、更生担保権者である抗告人に対しては何ら効力のないもので、従つて抗告人のさきになした競売手続も中止せず、また更生計画認可の決定によつても何ら競売手続はその効力を失わない。
六、よつて原決定は不当であるので、本抗告に及んだ次第である。